中学校指導書 理科編 昭和53年7月 文部省  理科における基本的な概念の形成

こんなの見つけたよ~と表紙写真と簡単なコメントをと…軽い気持ちでアップするつもりだったのが、中を読んでみると、なかなか埋もれさせておくのにはもったいない。学習指導要領本体はデータベース化されていてもさすがに解説までは(たぶん)ネット上にないところから、引用しながらいろいろ語っています。
中学校指導書 理科編 昭和53年7月…おそろしい子!  by月影千草

理科における基本的な概念の形成

第5節 理科における基本的な概念の形成
 今後の情報量はますます増大するであろうが,それらの情報を選択し,位置付けるための基準として有効なものが基本的な概念であるといえよう。殊に自然科学における知識量の増大は,専門の科学者さえも対応に苦しむほどになっており,教材を精選するという必要も当然のことと考えられる。基本的な概念は,それを形成することによって,多くの特定的,具体的事象の理解が可能になるような,適用場面の広いものでなければならない。また,このような概念は,単独に存在するのではなく,幾つもの概念が相互に関係し合って,一つの構造を構築している場合が多く,構造図として示すこともできる。
 ここで,概念の形成という用語を用いたのは,そうした基本概念が,完成されたものとして一方的に与えられるのではなく,生徒自ら作り出していくという意味である。生徒が自然をどのように認識し,概念を形成していくということについては,発達心理学や学習心理学の立場からの検討を必要とするであろうが,一般的にいえば,次のようである。
 初めは,個々の特定の事象を経験する。その事象間に共通点を発見し,一つのまとまりとして,他のまとまりと区別することができるようになると,それぞれの情報と情報との間に一つの体系がつくられたことになる。事象と事象との間の要因分析や因果分析によって,事象間の関係が明らかにされると,その関係を示す新たな概念が生まれる。
 このような概念形成には,観点を設けて行う分類とか,条件を統一して実験する要因分析や,仮説を設定してそれを検証する因果分析的な方法が伴わなければならない。概念の形成には,古い既成の概念との矛盾から疑問を抱き,それを探究することによって,新しい概念の発見に到達する場合も多い。科学の方法の習得と概念の形成とは,密接不可分の関係にあり,単独に習得することは難しい。
 科学は,最も数少ない原理によって,できるだけ多種多様な事象が説明できるようになることを理想とする。基本的な概念は,この最も数少ない原理の基礎となっているものを指しているのであろう。 しかし,もちろん,中学生として必要なという前提で考えるべきであって,今日の科学の最高水準で考えるものではない。中学生は中学生なりに,納得のいく説明がつくような原理であり,その水準での基本的な概念である。
 基本的な科学概念として,具体的に何を挙げるべきかの詳細については,各分野の目標で述べるのでここでは触れないが,同じ用語によって表現されていても,生徒が形成し保持している概念の内容は,その学習経験によって非常に異なっているということに注目すべきである。生徒の自然認識が広がり深められていくに従って,生徒のもつ概念構造図は,より充実し,より洗練され,より適用範囲の広いものに高められていく。自然科学そのものが完成されたものでなく,絶えず修正され,拡張されて発展していくものであることを考えるとき,生徒の概念形成も,生涯にわたって自己修正を加えつつ生成発展していくべきものであり,その形成能力を養うことこそ必要なのである。
 学習指導要領では,内容を示すに当たってエネルギー概念とか,巨視的ないし微視的物質観,全地球的な観点や生態系といった概念を,あらわに表現することを避け,むしろ,最終到達点とみなし,それに至るまでの基礎的な概念の積み上げを考えた。これは,直接経験を伴わない一般化や抽象化が,概念形成をかえって空虚なものに陥れることを危惧したからである。言語は概念形成に欠くことのできない重要な要素である。科学用語は,それを知ることによって,概念形成を促進し,発展させることを期待できる。しかし,意味・内容を伴わない用語や記号の記憶のみを強いることは,教育的に必ずしも有効とはいえない。必要な用語は,それを理解するばかりでなく,進んで使用し,科学的に正しい情報伝達ができるようにしたいものである。


 3つの頂点を3つの直線で結んだ図形が三角形である。これは、きちんと定義しているから、三角形とは何かがよくわかる。「三角形」の概念は言葉で定義づけられる。
 多くの人はきっとネコとイヌの違いを説明しろといわれるとどういったらいいか悩むけど、でもイヌかネコを実際に連れてくれば、それがイヌかネコかの区別はつけられる。そういう人は、言葉にはできないものの、その人の中に「イヌ」や「ネコ」の概念がれっきとしてある。
 では、例えば「エネルギー」についてはどうだろうか。石油などの燃料のこと?近いようだけどちょっと違う??。熱や光のこと?またそれとも微妙に違う感じがする。じゃあエネルギーって何?なんかわからなくなってきちゃった…?こうなると、「エネルギー」の概念形成が不十分ということになります。そんな人に、「エネルギー」についてわかるようにとどう教えるか。三角形のように言語化することもできなければ、イヌやネコのように具体的な、形のあるものでもありません。
 結論から言うと、簡単には説明できない、ということです。エネルギーの特徴や働きなどについて個々の特定の事象を経験する。これが「点」です。それを蓄積することで、事象という点と点が「ひょっとしてこういうこと?」という仮説で細い線になり、それが別の点や線で検証されれば「面」となり、やがて一つの概念という立体が構築されていきます。これが概念形成です。
 そうなると理科の学習でいえば「エネルギー」の単元が終わった時に、エネルギーの概念が(中学理科の範囲で)完成する、というのは当たり前といえば当たり前の話です。
 とはいえ、概念形成は、やはり一筋縄ではいかない難しさがあり、「ひょっとしてこういうこと?」という点を結ばせることができるか、結びやすい点を示せるか、当たり前すぎて気づいていない「点」(私がよく自転車のカギと呼んでいるもの)を見落としていないか、そういう意味で教える側の力量が問われるところでもあります。
 さらに概念形成の段階で思い違いや勘違いもありうる話だし、高校化学では中学で学んだ酸・アルカリや酸化・還元の概念を拡張して再定義するというような概念のバージョンアップがあるのも、然り。

 ちなみに、「科学は,最も数少ない原理によって,できるだけ多種多様な事象が説明できるようになることを理想とする。」わけですが、その「数少ない原理」に何を入れるか考えるのもひそかに知的な楽しいゲームです。ちなみに私は「慣性の法則」推しです。

 「直接経験を伴わない一般化や抽象化が,概念形成をかえって空虚なものに陥れる」ってのは、あれだな、アンジャッシュのコント。2人の当事者の頭の中にあるものは違っているのに、変なところで妙に一致してしまうところが、第三者(観客)を笑わせるってやつ。直接経験を伴わないから勘違いに気づかず、教師と生徒の間で違った概念を形成していくやつ。
その挙句、
生徒「わかりません!」
教師「なんでこんな簡単なところでわからなくなるんだ!」
観客爆笑、みたいな。具体例が思いつかないけど…。

 ま、とにかく特に物理領域では力や電流エネルギーについてどのように概念を形成していくか、もっと柔らかく言うとイメージづくりをしていくか、そこが理科教師の腕の見せ所なわけで。
 例えば私だったら「電流はもの、電圧ははたらき」「エネルギーはお金のようなもので、その本質は『能力』」とまず教師主導で生徒の頭の中を初期設定して生徒の概念を構築していきますが、最近の流行でもう少しアクティブにラーニングさせたいなと思っている次第です。
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